はあちゅう著「仮想人生」を読んでー仮想ってなんやろなー
はあちゅう著「仮想人生」を読みました
この本は帯にあるように、ツイッターの裏アカウントを使っている人たちが登場人物になっています
ツイッターを使っていないのは、主人公である美香の夫くらいですかね
この小説のように、実際に裏アカウントを使い、現実の生活とはかけ離れた人格というか、自分の欲望に忠実な設定のキャラを作っている人って多いんですかね?
裏アカを作って表の人生とは違う人生を歩みたいという願望が、自分には全く無いため実は設定そのものに共感が持てず、世界に入れなかったんですよね…
裏アカを作ってまで、自分の欲望を叶えたいと思えるほどの欲望がないというか、表立って言えないことって特に無いというか
ただ、変身願望というのは昔から人にはあるものであり、キューブリック監督の遺作となった「アイズ・ワイド・ショット」も変身願望がテーマの映画でした
ネット以前では仮面が変身願望のアイコンだったんですよね
SNSというかネットは匿名性が高いので、仮面を容易に被りやすくなったんだろうなと
帯に書かれている「人生がひとつしかないから、私たちは、苦しいんだ」というのは、当てはまる人が多いんですかね?
本音と建前をしっかりと使い分けている人たちにとっては、人生がひとつしかないから苦しいのかもしれません
はあちゅうさんの定義している「人生」がどういうものなのかが分からないので何とも言えませんが
「人生はひとつしかないから、私たちは、尊いんだ」
ということも考えもあるし、人格を変えるだけで、人生が複数になるのかなというのも疑問です
ナンパ師の鉄平にとって、ナンパ師という顔とアパレルで働いているという顔は2つの人生なんですかね?
童貞をツイッターで漁っていた女性の人生は、仮想と現実が繋がったということなんですかね?
「人格がひとつしかないから、私たちは、苦しいんだ」
だったら、凄く意味の分かる小説なんですが…
この小説の大前提って
表の顔では言えないような欲望みたいなものが人にはあって、表の人格だけで生きていこうとするから、苦しいんだ
ということだと思います
表の人格を表の人格として保っておくためには、裏アカのような別人格が必要だということなのかなと
裏アカを使っている人たちの中で、主人公の美香は傍観者だったんですよね
ある事件が起こるまでは
美香にとって裏アカの人生よりも、表の人生の方が非現実的になってしまった
その中で、美香がどう生きていくのか?
という感じの小説だと思うのですが…
これってどういう人たちが共感するんですかね?
どういう人たちをターゲットにした小説なんですかね?
人って仮面をつけたいという願望を脱ぎ捨てたところから、人生が始まるような気がするんですよね
だから、小説の中の登場人物たちも、次々と裏アカから卒業していったのかもしれないですね
この小説は匿名性を活かして、複数の人生を生きるようにはできるかもしれないけれど、人生はひとつしかないんだから、その人生を全うしようと
ということなのかもしれないですね
だとしたら、「仮想人生」というタイトルではないんじゃないか?
もっと生を実感できるタイトルの方が良かったんじゃないかなと思います
「仮想人生」というタイトルだと、「人生を複数生きたら楽になれるよ」というメッセージになりかねないなと
でも、本当のところはどうなんだろうか…この小説の登場人物からあまり感情が読み取れなくて、ロジカルな匂いをどうしても嗅いでしまったため、読者としてすごく突き放された感じがしました
それは自分がこの小説に書かれている世代とは違うということなのかもしれないですし、そもそも変身願望がないからかもしれません
それは、それで面白いんですけどね